COLUMN

Byパイ子

2022.04.15

Vol.2 クローブ
- わがままなポマンダー -

クローブ

形が釘に似ていることから、釘を意味するフランス語の「CLOU」が英名の語源。中国語では釘を意味する「丁」の字を使って「丁子」と呼ぶ。甘く強い香りが特徴で、リキュールやお菓子の香りづけにも使用される。鎮痛・抗菌作用から歯科で局所麻酔に用いられることもあり、他にも吐き止めや胃腸を整える効果もある。

 

まん防や緊急事態宣言が出ていない時期、久しぶりに友人と夜の街へ飲みに出た。

二人とも誕生日が近く、その時は12月ということもあって、誕生日会兼忘年会という感じで開催が決定。

 

余談だが、飲みに行った話をする時に冒頭のような一言をどこかに入れないといけない世の中になって、特にメディア関係の人たちは本当に面倒だろうなと思う。マスクをつけていないVTRなんかも撮影日を表記したりして。

「これはいつの時期に行ったんですか?まん防のさなかじゃなかったんですか?」とパトロールされている方々が本当に現実にいるのだろうか。もしいらっしゃるとしたら、何を思って生きているのだろうと他人事のように思ってしまう。

(当方、決してまん防や緊急事態宣言下でもガンガン飲みに行けばいいと思っているわけではない。ほら、こんなことも書かなきゃいけなくなる。面倒くさい世の中だ。)

 

 

 

さて、この夜の1軒目は最近できた昼飲みもできるワインバー。

イタリアのものだったかな…ビオの白ワインと、手がとまらなくなる燻製醤油のナッツをいただいた。

2軒目は二人でずっと行きたかった小さな和食店。ボロボロの古い路地の中で、扉を開けたらきれいな白木のカウンター。お腹をへこませながら客の背中をすり抜けて座った先で、出てくる料理は繊細な刺身や抜群の火入れをした焼物、というギャップにやられた。

 

 

そして、調子にのってなだれ込んだ3軒目。

私の中で密かに、ここに来れば必ず誰かと会うと思っているバー。オーセンティックでありながら、30そこそこのうるさい女2人でも温かく迎え入れてくださる優しいマスターと、素晴らしく落ち着ける空間にいつも「あいててよかった」と一昔前のCMみたいな言葉を頭に浮かべてしまうのだ。

ここに来れば誰かに会う、というのはこの夜も例に漏れず、一緒に行った友人の知り合いが横に座っていた。ちなみに出版社で働いていた頃、私はこの店できれいな女の人を連れた役員と鉢合わせをして、たくさん酒をおごらせた挙句「なんでボーナス出ないんですか?」と詰め寄ったことがある。うん、懐かしい。良い思い出だ。

 

 

この日は前日からまさかの大雪で、2軒目から歩いている最中に身体が冷え切ってしまっていた。でもアルコールは摂取したい私。そんなわがままな私のオーダーがこれ。

 

「あたたかいカクテルってできますか?」

 

冬にたまにしてしまうオーダー。ホットワインというものもあるし、ホットバタードラムっていうカクテルも以前飲んだことがある。チョコレートリキュールや紅茶のリキュールにホットミルクを注いで出してくれることも。どれにしたって、寒い日には染みるのだ。オーダーしながらも、実際は温める工程なんて面倒だろうなとは思うんだけど、酔いのまわった頭ではそこまで気にすることはできない。

 

そして今回出てきたカクテルがこれだった。

えらく前置きが長くなってしまったが、ここでやっと今回のテーマ「クローブ」が登場。

マスターの自家製ジンジャーシロップを使ったラムのホットカクテルをつくっていただいた。

ジンジャーシロップは、夫が一時期ハマって自宅でくつくつ煮込んで作っていたのだが、なんだか味が全然違う。スパイスの風味が襲ってくるようにぶわっと香る。特に仕上げで浮かべられているクローブの香りが程よくて、正直クローブの甘ったるい香りが苦手だったわたしはこのバランスに驚いた。

マスターのシロップはホールのスパイスをパラパラになるまで思いっきり削るんだそう。だからシロップに溶け出したスパイスの香りがちゃんと立っていて、ホールのまま浮かんでいるクローブの香りと合わせてちょうどよくなっているようだった。

 

こんなわたしのわがままオーダーに付き合ってくださったマスターに感謝、そして最高のカクテルに脱帽。

 

 

 

 

このコラムをご丁寧に読んでくださっている方はもうお気づきかもしれないが、わたしという人間は大変わがままな生き物だ。母親からは「わがまま子」と呼ばれ続け(そう育てたのは自分なのに)、夫にも日々呆れられる始末。

仕方ない。なにせ、わたしの座右の銘は「わがままに生きられるように」なのだから。

 

少し前まで「わがままに生きる」という言葉を座右の銘としてきたんだけど、なんだかそれがすごく傲慢に思えた瞬間があって、しかも自分の生き方とちょっと違うなと思ったので「わがままに生きられるように」に変えた。

自分で言うのもなんだがわがままに生きるのも実はちょっと大変で、わがままに生きるためにわたしはいろんなことを調整したり選択したりしながら生きてきた。

 

わがままに生きられるように、甘やかしてくれる夫を選んだこと。

わがままに生きられるように、上司の太鼓持ちをすること。

わがままに生きられるように、実家や義実家から遠い地に住むこと。

わがままに生きられるように、フリーランスになること。

 

わがままって言っても、自分の中で譲れるどうでもいいところはなんでもやる。でも譲れないことはあって、それはどうにかうまいことやって手に入れたいのだ。

弊害はある。ただそれはわがままの副作用であって、自分が蒔いた種だから仕方ない。わたしはそんな風に生きてきたし、これからもそう生きていくのだろうと思う。

 

 

 

 

というようなことを、私がわがままオーダーした最高のあったかいカクテルを飲みながらボーっと考えた。

目の前のカクテルにはレモンの皮に刺さったクローブがくるくると浮いている。

 

 

西洋に伝わるクリスマスの風物詩として「フルーツポマンダー」というものがある。柑橘系の果実にクローブをブスブス刺して作られ香りの魔除けと呼ばれている、ちょっと見た目がアレなやつ。(わたしと同じく集合体恐怖症の人は検索しない方がいいよ)

 

これは厄災や蔓延する疫病から身を守るお守りとも言われているらしい。このカクテルも柑橘にクローブを刺しているものが浮いているから、そんな効果があるかもしれない、と都合よく考えてみたりして。

コロナに世の中が侵され、わがままに生きづらいわたしは皆さんと同じくストレスフルだ。だからこそ、疫病退散のため、たまにこのカクテルを飲みにふらっとまたこのバーに行こうと思う。

疫病退散のためだからね、仕方ないよね。

 

 

今回は美味しいクローブが浮いたカクテルとわがままな私のお話しでした。

 

投稿者紹介
パイ子
東北地方出身。パイマーくんとパイシューちゃんとともにパイマー店主に仕える食いしん坊編集者。現在夫と息子と共に暮らしている裏日本の田舎町に移住する前は、大阪で10年遊び惚けていた。カレーはレシピを見ないで最終形態を楽しむ派。以前からハマっているチャイ作りで自分のベストを見つけられないことが最近の悩み。趣味は美味しいものと街中の面白いものを探すこと。大阪のカラッとした天気が恋しい日々を過ごしている。

ARCHIVE

CATEGORY