COLUMN

Byパイ子

2022.05.02

Vol.3 コリアンダー
- おくちの経験値 -

 

 

 

コリアンダー

地中海地方原産。種子はスパイス、葉はハーブや薬味として使用されるほか、東南アジアでは茎や根も料理に煮込んで用いるなど余すところなく利用されている植物だ。葉は独特の香りがあり有名だが、種子からは柑橘のような香りがする。ビタミンCやカルシウム、鉄分を多く含み、デトックスなどの美容効果が高いとされている。

 

 

食の好みは親からの影響が少なからずあると思っているが、私はその影響をもろに受けているタイプみたいだ。子どもの頃から父の横にくっついてお酒のつまみを拝借していたため、小学生の時に「好きな食べ物は鯨ベーコン」と言ったら友だちから「???」って反応が返ってきたのを覚えている。鯨ベーコン、皆はご存じだろうか。めちゃくちゃ美味い酒のアテ。日本酒のお供におすすめです。

 

他にも母の影響で、少し癖のある野菜とか、苦みのあるもの、香りの強いものがすごく好き。特に薬味やハーブをふんだんに使った料理が好きで、よく実家の食卓にも並んでいたんだけど、唯一コリアンダーの葉だけは母は食べられないんだ。少しでも口に入ると叫ぶほどで、ハーブ好きの母を見ている私たち家族の中では母の七不思議のひとつとなっている。

私はと言うと、コリアンダー自体は特に「臭くて苦手」とも「好きすぎてそのまま山盛り食べたい」とも思わない。料理のアクセントの一つとして美味しく楽しめる程度だが、コリアンダーが添えられた料理は比較的好きなものが多いと思う。これは親からの影響ではなく、自分自身で開拓した食の好みなのかもしれない。

 

 

実はそんな両親をいつか連れていきたい店がある。

以前仕事を通じて知り合った方が最近オープンしたモロッコ料理屋さん。モロッコは私が新婚旅行で訪れてから思い入れの深い国で、両親にもいろんな思い出話を聞かせていた。私と同じく食いしん坊な人たちなのでモロッコ料理についても興味津々な二人。ただ、モロッコの旅は体力的になかなか過酷で、老いた両親を連れていくことは今後も難しいと思うから、その雰囲気だけでもいつか味わってもらいたいと思っているのだ。

しかし、モロッコ料理はコリアンダーをよく使う。母が食べられるのかどうかだけが問題だ。

 

つい先日その店のオープニングイベントにお呼ばれをして行ってきた。

スパイスの歴史や効能などを学べるスパイス講座とモロッコ料理のコースが楽しめるイベントで、このコラムを書いている身としては願ったり叶ったりの会だった。

モロッコは大西洋と地中海に面した北アフリカの国で、料理にはスパイスをよく使用するが、インドやタイ、中国などアジアのスパイス使いとはまた違った使い方や味わいがある。

オーナーがインド料理店のシェフとした会話についてこう話していた。

「インド料理はスパイスを後から入れることが多く、モロッコとは使い方が違うそう。モロッコ料理は食材とスパイスを混ぜ込んで一気に火にかけることが多い」

同じスパイスを使った料理でも国によって調理傾向が変わるのもまた食文化。そういう話はおもしろくてずっと聞いていられるなぁ。

 

 

 

帰りに自宅用のお土産を購入。コースの魚料理で味変のために添えられていたコリアンダーの葉を使ったペーストで「ZHUG」という。オーナーは読み方をゾグ、とかザグ、みたいな感じで言っていたけど、帰って調べたらスクッグやズームと発音するという記述も出てきた。きっとアラビア語が日本人の口の動き(カナ表記)にあまり対応していないからこうやっていろんな発音が出てくるんじゃないかな。あとは国によって違うとかもあるかもね。

 

国によって呼び名が違うといえばコリアンダー自体がそう。今回わかりやすく「コリアンダーの葉」という書き方をしているけれど、日本では一般的にスパイスとしてよく使う種子の部分をコリアンダー、葉っぱの部分をパクチーとして認識されているようだ。けれど実際は同じ植物のことを指していて、この呼び名は国ごとの言葉の違いなんだとか。

コリアンダーは英語だが、タイではパクチーと呼ばれ、中国ではシャンツァイ(漢字で香菜)。日本では香菜を音読みして「こうさい」とも呼ばれている。全部聞いたことがあるし、人によっては同じ植物と知らない人もいるかもね。ここまでいろんな名前が浸透している1つの植物も珍しい気がする。

大人になると自分のまわりのコミュニティが増えてきて、それぞれで違う呼ばれ方をする人がいるけど、コリアンダーってその感じに似ているな。私はあまり呼ばれ方が変わる人ではなかったので、いろんなあだ名を持っている人が少し羨ましかったんだ。

 

 

 

 

上で紹介した「ZHUG」を先日子どもに食べさせる魚にちょっと使ってみた。独特の香りも残っているペーストなのだが、パクパク食べた息子。「ハーブやスパイスって子どもに食べさせて大丈夫なの?」という声も聞こえてきそうだけど、子どもの食事については私なりに考えていることがあるんだ。

 

子どもの食事や食育って、本当にいろんな考え方があって、SNSでも投稿がよく流れてくるし、友人との会話でもよく話題になる。私としては、子どもを元気に育てようと食事を与えている時点で全てが正解だと思う。どれが良いとか悪いではなく、何を選択するかだよね。

 

我が家では子どもの食事は主に私が作っていて、離乳食を始めた頃から決めているテーマがあった。それは「なるべくいろんな食材を経験させて、息子の舌を親好みにすること」。

もちろん、食べさせてはいけない食材はあるので、それは注意する必要があるけど、食べられる食材を増やす速度は離乳食本やサイトによって考え方がまちまちなことが多くて、いつまで経っても食べられる食材が増えていかないものもあったので、早い段階から自分の判断でなるべくいろんな食材に挑戦させるという考え方に切り替えた。

この挑戦的な(?)離乳食の進め方は、世界の離乳食を調べたことがキッカケ。スパイスのような刺激的なものからはほど遠い離乳食を作っていたある日、インドの赤ちゃんって何を食べるんだろう?と疑問に思って調べ始めた。すると思っていた以上に国によって離乳食の考え方に違いがあることに驚いた。かなり小さい時からサラサラのスパイススープのようなものを与えている国もあったし、日本では酵素が多いと敬遠されている南国系のフルーツがベビーフードの主体になっていることも。そうやって世界の離乳食を調べ進めた結果、私は「意外と赤ちゃんは丈夫。制限するよりもいろんな食材を経験させてあげた方がこの子にとっての食生活は豊かかもしれない」という考えにたどり着いたのだ。

 

特にいろんな種類を食べさせているのは野菜。そもそも我が家の食卓は、比率として野菜にお金をかけがちで、高級肉数切れよりも新鮮だったり珍しかったりする野菜のサラダの方がごちそうであるという考えなのだ。

牛肉はあまり買わないし、豚肉は海外産の小間切れ。魚も安い切り身が多い。その代わり、珍しい野菜や季節の山菜などがあればついつい手が伸びる。道の駅の野菜コーナーや、有機野菜を取り扱うショップも大好きで、そうやって親が食べるために買った野菜を、子どもにも与え続けてきた。それが功を奏したのか、幼児食になった今でも大人が好む苦みのある食材や、香りの強い野菜もよく食べている気がする。(偏食がないわけではない。逆に甘みのあるものが苦手みたい…)

調味料に関しても一緒。「ZHUG」を手土産に買ったように、調味料もいろいろ試したくなるタチだから、こういった添加物の入っていない手作りの調味料はもちろん、辛みのないスパイスも子どもの食の状況を見て少しずつ食べさせていた。

 

「息子の舌を親好みにすること」のメリットは早く親子で料理を共有できることと、親が子どもの好みに合わせる必要がないということだ。子どもが好きになりがちな甘めの食材をそこまで好まない私たち夫婦にとって、これは親のストレス軽減でもあった。親のストレスフリーは楽しい食卓を生み、結果として子どもの食への興味に関わってくるというのが私の持論だ。

 

親の影響により、酒のつまみが大好きになった私と苦い野菜もよく食べる息子。

食いしん坊である私は、コンビニの新作カップラーメンも、高級モダンフレンチも楽しめる人でありたいと思うし、将来息子がそうなったらいいなとも思う。

あまり良い例えではないかもしれないが、子育ては長い年月をかけた人体実験のようだと思うことがある。もちろんそこに愛があるからこそ成り立つものであり、いろんな愛が形となって人間を作り上げるという姿が望ましいが、正解はないんだと思う。

我が子がこれからどんな人間になっていくのか、楽しみでしかたがない。

いつか、いろんな料理をうまいうまいと言いながら一緒にお酒を飲んでくれるかなぁ。

 

以上、今回はコリアンダーと食から育む経験のおはなしでした。

投稿者紹介
パイ子
東北地方出身。パイマーくんとパイシューちゃんとともにパイマー店主に仕える食いしん坊編集者。現在夫と息子と共に暮らしている裏日本の田舎町に移住する前は、大阪で10年遊び惚けていた。カレーはレシピを見ないで最終形態を楽しむ派。以前からハマっているチャイ作りで自分のベストを見つけられないことが最近の悩み。趣味は美味しいものと街中の面白いものを探すこと。大阪のカラッとした天気が恋しい日々を過ごしている。

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